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騙されるな。有機野菜が「美味しくて、健康的」とは限らない。

ナショナル・ジオグラフィックのサイトで、「有機野菜はやはり「おいしくて健康的」、英米の研究で」という記事が出ていた。http://nationalgeographic.jp/nng/article/20140811/411218/?webSp=food

 

記事の内容をまとめると、

①有機野菜は農薬を使わないので、(病害虫等に対抗するため)抗酸化物質が増える

②抗酸化物質は、私たちの体も守ってくれる(=健康に良い)

③有機野菜は、合成肥料を使わないので、テロワール(作物の生育環境が何らのかのストレスを作物に与え、作物内の物質・風味として現れたもの)がある

④有機野菜には、金属成分等(おそらく、身体によくないものという意味)が少ない。

というものだ。

 

しかしこの記事、農業関係の専門家・研究者、正しい知識のある生産者の方が読めば、すぐに「おかしい(正確ではない、または嘘、結論ありきでミスリーディング)」と気付くはず。

 

当然、指摘される事項としては、

☑有機栽培でも、有機農薬は使う。

☑人間にとっての「抗酸化物質」と呼ばれるものは、病害虫に対抗するために植物が生成する成分(フィトケミカル、植物内化合物)のごく一部に過ぎない。

☑フィトケミカルが、人間の体に良いとは言えない(虫や動物に悪い成分=人間にも悪影響がある場合が当然ある。むしろ、植物が作り出す天然化学成分の方が、残留化学農薬よりもはるかに危険である場合も指摘されている。)

☑病害虫の有無(植物の外敵・外的ストレス)は、農薬使用の問題で、合成肥料の有無が主たる要因ではない。

☑有機農業でも、有機肥料は使う。合成肥料と有機肥料で、合成肥料の方が金属成分を含んでいるということはない。

などが挙げられるだろう。

 

記事の信頼性以前の問題として、まず「有機農業」を正しく理解する必要がある。

 

「有機農業」という言葉は、戦後の化学農薬・肥料(無機質)を使う農業との「対比」として、戦後に生まれた言葉。それ以前の伝統的農業が、木酢液や堆肥、食品残渣といった有機物を肥料や農薬に使うことが多かったため、 象徴的な用語として使われているが、「無農薬」でも「無肥料」でもないことを、改めて認識する必要がある。

 

もう一度言う。

 

「有機農業」は、農薬や肥料を使わない「自然・天然」のことではない。
もっと言うと、「自然・天然」が「安全で品質が高い」ではない。当然「有機=安全・品質が高い」でもない。

 

にもかかわらず、そう盲信してしまっている人が、日本にも、世界にも、驚くほどたくさんいるのだ。

 

日本には「有機JAS」という規格があり、有機農薬や肥料の種類や使用量等がある程度ガイドライン化されているが、 実際には、昔ながらのやり方で人や動物の糞尿をそのまま畑に入れたり、農薬代わりになると言って牛乳等を野菜に 散布する”有機農家”までいる。このようなやり方では、土壌の腐敗が進んだり、作物表面に雑菌や腐敗菌が増えてしまって、かえって人の健康の観点から言えば「危険」なのだが、こうしたものすら「有機栽培」や「化学農薬・肥料不使用」として、 高めの価格で売られているのが現実だ。

 

(この”ニセモノ有機/危険な有機”については、回を改めてご紹介したい。)

 

誤解のないように言っておきたいのは、私自身は、国が定める「有機JAS」が完璧な基準だとは当然思っていない。通常の「化学農薬・肥料の使用基準」が 適正かどうかも継続的に検証しなければ分からないことだし、残留農薬証明で検出されなければ、本当に人間にとって 安全(影響がない)とも言い切れない。
しかし少なくとも、「何の科学的分析や根拠、検証可能なチェックもなく、化学農薬さえ使わなければ有機」というものよりは、まだ信頼に足るとも言えるのではないだろうか。

 

なお、更にこの場で誤解のないように言っておきたいのは、私は、有機農業自体の推進には強く賛同しているし、現に有機農法での 生産もスタートさせている。ただそれは、化学農薬や肥料を使った野菜が危ないから、身体に良くないから、という考え方ではない。

 

食品残渣や畜産屎尿等の処理に莫大なコストとエネルギーが使われている現代において、堆肥等で活用・再利用することで 「省エネ・循環型社会」へのシフトに取り組みたいと思ったこと。化学農薬・肥料を使うのは安定した食料生産のためだが、 使い過ぎて土壌が弱ってしまったら、逆に「安定的・持続的な生産がままならないのでは」、という矛盾を感じたこと。

これだけだ。

当然、数十年前の日本や、今の中国・アジア諸国に見られるように、化学農薬・肥料等の使い過ぎによる土壌の疲弊や 健康被害等は回避されるべきことだと思うが、化学農薬・肥料自体は、有機物から抽出・生成しているものもあるし、 人間の叡智の結晶として、その使用基準や残留農薬検査等のレベルを見ても、闇雲に否定するものではない、というスタンスだ。

 

最後に、大事な議論をしておきたい。
それは、「確かに、有機農法で育てた野菜は美味しいと感じることが多い」ということ。

 

有機農法(有機農薬や有機肥料)は、無機農薬等に比べて即効性等も低いのが一般的だ。だから、とにかく農家さんが 作物の面倒をちゃんと見て、手をかける。もっと言うと、有機農法で安定的に生産・出荷できている農家さんの技術や意欲が相対的に高いのだ。

また有機農法は、慣行農法に比べて一般的に収量も低いので(そうでないスゴい有機農業技術・理論を実践しているグループもいるので、 これまた先入観を与えてはいけないのだが…)、評価してもらう・高く買ってもらうための食味改善の努力や届けるところ までの細やかさがある、といったところが品質に繋がっているのではないだろうか。

 

「~~栽培だから美味しい」なんていう先入観や、「プラシーボ効果(美味しいと思って、信じて食べている部分)」ではなく、こうした生産現場の努力が品質として伝わって、適切に評価がなされていく社会になると良い、と心から思う。

  • ジョンレノン

    「有機」の語源は漢詩の一節、「天地有機」(天地、機有り てんち、ときあり)、から引用されました。
    大自然には環境を破壊せずに、資源やエネルギーを循環させる仕組み・機能の法則があるという意味。
    1971年、日本有機農業研究会が発足したときに生まれた言葉です。
    1978年、日本有機農業研究会が「生産者と消費者の提携の方法」(提携十か条)を採択

    日本有機農業研究会の発足と歩み
    http://www.joaa.net/mokuhyou/yukinouken.html

    その後、法律が変わるたび、また時代の流れと共に、本来の「有機」とは別に新たな有機が定義され、増えていきます。

    1992年、農林水産省により「有機農産物及び特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」制定
    2000年、日本農林規格の改正「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)」
    2006年、「有機農業の推進に関する法律」制定

    新たに法律や規格で定義されたからといって、
    ひとたび広まった消費者の理解・生産者の信念は、そう簡単に変わるものではありません。

    現実には多種多様な「有機」が存在しています。
    今後もまた新たな解釈と理解の有機が生まれ広がっていくことでしょう。

    ちなみに、オーガニックorganicは、organ(器官、臓器)が由来です。

    「有機」という言葉に頼らなければ振り回されることはありません。
    代わりに、作る人も届ける人も食べる人も、まずはお互いを知ることです。
    有機にまつわる問題は、生産者・流通・消費者のコミュニケーション不足によるものだと私は思います。

    1978年 生産者と消費者の提携の方法(提携の10カ条)
    http://www.joaa.net/mokuhyou/teikei.html

    ■相互扶助の精神

     1.生産者と消費者の提携の本質は、物の売り買い関係ではなく、人と人との友好的付き合い関係である。すなわち両者は対等の立場で、互いに相手を理解し、相扶け合う関係である。それは生産者、消費者としての生活の見直しに基づかねばならない。

    ■計画的な生産

     2.生産者は消費者と相談し、その土地で可能な限りは消費者の希望する物を、希望するだけ生産する計画を立てる。

    ■全量引き取り

     3.消費者はその希望に基づいて生産された物は、その全量を引き取り、食生活をできるだけ全面的にこれに依存させる。

    ■互恵に基づく価格の取決め

     4.価格の取決めについては、生産者は生産物の全量が引き取られること、選別や荷造り、包装の労力と経費が節約される等のことを、消費者は新鮮にして安全であり美味な物が得られる等のことを十分に考慮しなければならない。

    ■相互理解の努力

     5.生産者と消費者とが提携を持続発展させるには相互の理解を深め、友情を厚くすることが肝要であり、そのためには双方のメンバーの各自が相接触する機会を多くしなければならない。

    ■自主的な配送

     6.運搬については原則として第三者に依頼することなく、生産者グループまたは消費者グループの手によって消費者グループの拠点まで運ぶことが望ましい。

    ■会の民主的な運営

     7.生産者、消費者ともそのグループ内においては、多数の者が少数のリーダーに依存しすぎることを戒め、できるだけ全員が責任を分担して民主的に運営するように努めなければならない。ただしメンバー個々の家庭事情をよく汲み取り、相互扶助的な配慮をすることが肝要である。

    ■学習活動の重視

     8.生産者および消費者の各グループは、グループ内の学習活動を重視し、単に安全食糧を提供、獲得するためだけのものに終わらしめないことが肝要である。

    ■適正規模の保持

     9.グループの人数が多かったり、地域が広くては以上の各項の実行が困難なので、グループ作りには、地域の広さとメンバー数を適正にとどめて、グループ数を増やし互いに連携するのが、望ましい。

    ■理想に向かって漸進

     10.生産者および消費者ともに、多くの場合、以上のような理想的な条件で発足することは困難であるので、現状は不十分な状態であっても、見込みある相手を選び発足後逐次相ともに前進向上するよう努力し続けることが肝要である。

  • Yoichiro Hirose

    これは、有機農産物の、欧米流マーケティングツールでしょ。

金田光市多摩大学経営情報学部卒。株式会社アイ・エム・エー…

二瓶 徹大学院で農学と社会学を専攻し、農水省所管法人にて…

岩崎 亘静岡県伊豆地方のみかん専業農家の長男。早稲田大学…

中島 沙織バイオテクノロジーの専門学校を卒業後、嫁ぎ先の群…

キクチ シン金融業界やコンサルティング業界から、農畜水産・食…

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