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農業ICTって、意味あるの?

近年にわかに注目が集まる「農業ICT」ですが、その「必要性」や「意味」について
見解を求められることが増えたため、思っていることを書いてみます。

 

まず「農業ICTとは何か」ということですが、直訳すれば、
農業分野で活用される「情報」や、その計測や伝達に必要となる「機器・機械」や
「アプリケーションやシステム」の総称、といったところでしょうか。

 

もう少し具体的に説明すると、土づくりから作付、収穫・出荷に至る工程や、
栽培環境(気象やCO2濃度等を含む)を計測し、その測定結果を蓄積・分析し、
-栽培環境を改善したり、
-作業工程を効率化したり、
-収穫・出荷期を予測したり、
-天候を予知して対策を打ったり、
-トレーサビリティに向けた情報提供をしたり…
ということができるようになる仕組み全体を、「農業ICT」と呼んでいます。
また、こうして計測して蓄積されたデータを「(農業)ビッグデータ」と呼んでいます。

 

「農業ICT」や「ビッグデータ」の目指すところは、
この環境(日照、温湿度、土壌の栄養・水分量など)や作業工程に関するデータと、
作物の生育・収穫データを照らし合わせていけば、きっと最適な栽培方法や
収穫タイミングが把握でき、生産・出荷計画の効率化を図れるようになるだろう、と
いうところです。そのためには、一人の生産者だけではなく、複数の生産者から
正確なデータを多く提供してもらい、その中から「有意義な相関関係(統計結果)」を
導き出す、というのが現在のアプローチです。

 

この「農業ICT」や「農業ビッグデータ」について、(特に、農業ICT機器の導入を
検討している)生産者さんが、考えなければいけない「4つの疑問」があります。

 

①データが統計的に機能するのか?
同じ作物(例:トマト)でも、目指す作物の規格(食味、糖度、栄養価、色味、サイズなど)次第で
使う種苗から栽培法、環境制御、収穫タイミングもすべて異なります。
「収量」はもちろんですが、それだけでなく当然「品質&単価」で勝負する農家も多いでしょうし、
時期や売り先、売り方によって「売れる(良い)モノ」が異なるため、「何を目指した、最適な生産
設計なのか」を定義する(条件を揃えて、統計的に経験値を抽出すること)が難しいのです。

 

②そもそも、測って記録するべきデータは明確になっているのか?
農産物は「生き物」なので、その生育の最適化をモニタリングするために計測すべきデータや
計測方法は複雑です。今は作物を取り巻く「生産環境」計測が主流ですが、作物の見かけ(写真)から、
樹液流(人間では血流みたいなもの)なども測る必要があるように思われるのですが、そうしたことへの
認識や、適切な計測技術も普及していない状況があります。

 

③データを計測するだけでは意味がないのでは?
データを計測しても、その意味を解釈し、適切な栽培計画に改善・修正できなければ意味がありません。
これには植物生理学や土壌関連の専門知識も必要ですし、また「これが絶対」といった栽培メソッドも
確立されているわけではありません。 圃場データ等がリアルタイムに入れば、自動的に「栽培計画・
作業改善指示」が出るようなシステムこそ生産者が求めるものですが、この開発にはしばらく時を
要するように思います。

 

④そもそも、農業ICTを導入することで、農家が儲かるのか?
これが最も重要な問いかけです。農業ICTを導入することで、「最も市況の良いときに、最も条件の良い
取引先に、最も良い状態で収穫・出荷ができる」ようになるのであれば、儲かります。また、同時に
「生産物のロスを低減し、作業にかかる人的負荷を軽減・効率化」できれば、コスト削減にも繋がり、
農家さんの手取りを増やすことができます。現時点での農業ICTは、後者のコスト削減の意味合いが強く、
もっとも重要な市況や取引先など「売り方」については、(日本の流通構造が複雑なこともあり)
ビッグデータ化が進んでいない現状があります。

 

要は、現在の農業ICTは、計測→データ蓄積・分析により、「作業工程を改善し得る”何らかの”相関や示唆が
抽出できる”かも”」というアプローチが主流なのです。しかし、その前提となる「測定・収集すべきデータの
定義」や「作物や農業の目指す姿・ゴールの定義」、「データの解釈から実作業への落とし込みに関する教育」
などが未着手な中で、生産者の視点で見ると「きわめて素人的・企業的で、データ収集主義」にも映るものです。

 

このように、現状の日本の農業ICTは、「生産者さんにとって意味のある仕組み」になる以前に、補助金を
活用した「ICT機器売りと、生産現場の情報かき集め」に偏重している感があります(これについては、
別の機会に詳説します)が、今後は、上記4つの疑問に答える形で開発が進むことが期待されます。

 

ご参考までに、アメリカには「Farmlogs」という農業ICTベンチャーが急成長しています。それは、
アメリカにおいて、標準化されている「大規模・画一的な穀物生産体制」と、「穀物のダイレクト(先物)
取引市場がある」ことで、市況(販売価格)データを繋げることができるという環境が寄与しています。

言い換えれば、「Farmlogsの導入=収益拡大」というストーリー(効果)が明確である、ということですね。

 

日本の「多様で、奥深い農業界」の中で、「日本版Farmlogs」となるのはどのプレーヤーでしょうか。

これからの動向に引き続き注目です。

 

藤本 真狩神戸大学経済学部を卒業後、京都大学医学研究科在籍…

二瓶 徹大学院で農学と社会学を専攻し、農水省所管法人にて…

金田光市多摩大学経営情報学部卒。株式会社アイ・エム・エー…

岩崎 亘静岡県伊豆地方のみかん専業農家の長男。早稲田大学…

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